俺様社長と<期間限定>婚前同居~極上御曹司から溺愛を頂戴しました~
 貴士さんの綺麗な指先が、私の涙で濡れていた。

 それだけのことなのに、ひどく動揺している自分がいた。
 まるで全身が心臓になってしまったように、鼓動が大きく響いていた。

 言葉も発せずにいると、貴士さんは短く吐息をもらして笑う。

『そうやって泣くのは、俺の前だけにしとけよ』

 柔らかな声で囁かれたとき、遠くから『こらー!』と大きな声が聞こえてきた。

『貴士、私の綾花をいじめるんじゃない!』

 ものすごい勢いで走ってきたのは、姉の渚沙だ。

『いじめてないけど』
『じゃあ、なんで綾花が泣いてるのよ!』

 姉は眉を吊り上げて貴士さんを責める。

 貴士さんは私をいじめていないときちんと説明しなくちゃと思うのに、言葉がでてこず口ごもる。
 引っ込み思案な自分がいやになってうつむくと、貴士さんがくすりと微笑む気配がした。

『ただ、綾花は泣き顔もかわいいなって思ってただけ』

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