荒野を行くマーマン
「はぁ~、落ち着く」

「そうですね」


コーヒーを一口啜ったあと、思わず発した私の声に魚住君は同意した。


「…昨日一日働いてみてどうでした?」


元々話題が豊富な方ではない上に、知り合ったばかりの人物と何をテーマに話を展開したら良いのかが分からず、かといって無言でいるのも気まずかったのでとりあえず無難な質問を投げかけてみた。


「ええ…。久しぶりの仕事でしたし、新しく覚えなくてはいけない事も目白押しで、瞬く間に時間が過ぎ去ったという感じです」

「ですよね。私も入社して、部署での勤務初日は何が何やらでしたから」


ウンウンと頷いてから続けた。


「朝の通勤も辛かったんじゃないですか?確か電車でしたよね」

「あ、いえ。実は先月何日間か電車に乗ってみたんですよ。初日はあえてラッシュ時を避けて、徐々に自分の通勤時間に近づけていって。なのでそれ自体はさほど苦痛ではなかったです」

「ああ、事前に体慣らしをしていたんですね」


川崎の時は社員寮から徒歩通勤だったみたいだし、そしておそらくリハビリはご家族運転の車かタクシーで通っていたことだろう。

そこからいきなり朝の満員電車デビューじゃ、病み上がりの体にとんでもない負担がかかるもんね。


「それで実際に会社まで来てみた後、図書館で数時間過ごしたり昼食をとったりして、なるべく仕事モードに近づけるようにあれこれ動いてました」

「なるほど~」


いわば本番に向けて準備体操をしっかりとこなして来たという訳か。

そういうところがやっぱり体育会系の人なんだな、としみじみ思う。
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