荒野を行くマーマン
「……まだ初日だし、私自身がそんなに経験値がある訳じゃないもん。そんなの分からないよ」

「ま、すぐにボロが出るだろうけどな。今まで腰掛け程度にしか仕事してこなかったんだから」

「そんな、腰掛けって…」「お待たせいたしましたー」


最後の発言に反論しようとしたところで、店員さんが各々頼んだ飲み物を運んで来てくれたので私はひとまず言葉を呑み込んだ。

乾杯後、ビールをグビグビと煽り、プハーと満足げに息を吐き出す岩見君を微妙な気持ちで眺めつつ私もウーロン茶に口を付ける。


今日から庶務課で働く事になった魚住君は、我が大和重工が運営している水泳部に所属していた選手だった。

その時の勤務場所は川崎にある工場内の、生産管理部。

練習場と、また、会社が借り上げて独身寮としているマンションがそれぞれ近距離にあるので、水泳部員は川崎工場内の各部署に配属されるのが通例となっているらしい。

会社の中に設けられている運動部…すなわち「実業団」で活動する選手の勤務体制は企業によって異なるけれど、ひとまずウチの場合は日中普通の社員と同じように仕事をこなし、勤務後に練習に励んでいるらしい。


といっても一般の社員は18時が定時のところ17時までと、若干時短勤務だけど。

また、大会前には更に早上がりする事が認められているようだ。
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