荒野を行くマーマン
しかしそれでも、個人的にはかなり大変な毎日を送っているんじゃなかろうかと思う。

朝から夕方までキッチリ働いてくたくたになった後、アスリートとして必要で重要なトレーニングメニューをこなさなければならないなんて。

だけどそんなハードな境遇に不平不満を漏らすことなく、仲間達と共に日々練習に励んでいた魚住君だったけれど、入社してから半年経った頃、最大の悲劇に見舞われた。

職場から練習場所へと向かう途中、交通事故に巻き込まれ、右足を負傷し、選手生命を絶たれてしまったのだ。

魚住君は業界内ではこれから大躍進していくであろうと大変有望視されていた選手だったようで。

現役で活躍できる期間が短いとされるスポーツの中でも水泳は特にそれが顕著らしく、中には10代半ばでピークを迎えてその後は下り坂になってしまう例もあるようなのだけれど、魚住君は珍しく大器晩成型で、高校まではこれと言った成績は納めていなかったけれど大学に入るやいなやメキメキ頭角を現し始め。
数々の大会で上位入賞するようになり、見事初優勝をおさめた後はいくつかの企業から声がかかり、その中で、実業団の水泳部としては歴史と実績がある我が大和重工に入社を決めたのである。

とはいえ魚住君が事故に逢った事は大々的なニュースにはならなかった。
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