荒野を行くマーマン
若い時分から世間に注目されて、メディアにずっと密着取材されて、それがプロになった後も続いて行く選手も中にはいたりするけれど、アスリート人口からしたらそんな人はほんの一握りで、実力があったとしても皆が皆、そこまでクローズアップされる訳ではない。

本当に知る人ぞ知る、これから世間に名を知らしめる筈だった魚住君は、ひっそりと静かに競技人生に幕を下ろすことになったのだった。


療養とリハビリに励む為都内の実家に帰っていた魚住君は、事故から数ヶ月後、日常生活には差し支えないくらいにまで回復した所で、職場復帰に向けて会社と話し合う事となった。


実業団選手の引退後の進路についてはこれまた企業や個人の事情によって色々変わってくるけれど、ウチの場合は一度採用したからには、本人が望む限り定年まで責任もって面倒を見る、というスタンスらしい。
だから将来に不安を感じることなく現役時代は競技に集中して下さい、と。

そのまま元いた職場で働き続けても良いし、何か不都合な点があるのならば、別の勤務地、部署への異動願いを出しても構わない。

もちろん、100パーセント希望が通る訳ではなくて、本人からその考えに至った事情をヒヤリングしたのち、それまでのスキルを考慮して、配属先が決まるのである。


魚住君の場合は順調に回復してきたとはいえしばらくの間はリハビリに通わなくてはならないので、一人暮らしに戻るのは不安であるということ、なのでこのまま実家に留まり、そこからの通勤が容易な勤務先が良いということで、その条件に沿った東京本社の庶務課への異動が決定したのだった。
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