エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
「治らないんですか……?」

震える声で尋ねると、沢渡先生は「進行を止めることならできますよ」と眼鏡のブリッジを押し上げた。

「心掛けることとしては、規則正しい生活に適度な運動くらいでしょうかね。あとは心臓に過度な負荷をかけるようなことは避けてください。重量挙げとか、トライアスロンとか」

「やるようなタイプに見えるか?」

透佳くんが冷静に突っ込みを入れる。残業は……過度な負荷にあたるのだろうか?

「あとは、出産、とかな」

透佳くんがぽつりと呟いた言葉に、私は蒼白になる。

彼のお母さまは、弟の出産の時に亡くなったのだ。

元々体が弱かったそうなのだが、無理を押して出産し、そのまま意識を失い帰らぬ人となってしまったとか。

ことの重大さをいっそう思い知らされ、黙り込んだ。

きっと透佳くんは、リスクのある出産は止めろと言うだろう。お母さまのことがあるから。

出産が、できなくなるかもしれない……。

私と透佳くんの間に授かるかもしれない命。その可能性を、私は自分の手で壊してしまおうとしていたのかもしれない。
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