みずあめびより
「!!!」

衣緒は背中に熱が集中するのを感じた。

「衣緒が寝るまでこうしてる。」

鈴太郎は自分の中の何かを抑え込むように言う。

「何でですか?」

「また脱出されたら困るから。」

「え!それじゃ葉吉さん寝れないじゃないですか?早く寝ないとってプレッシャーでさすがに寝れなくなりそう・・・。」

「俺はいいよ。朝までこのまま起きてても。」

───嘘。無理。俺が耐えられるうちに寝てくれ・・・。

衣緒が腕の中でもぞもぞと動いて体を彼の方に向け向かい合う形になる。

「脱出しませんから、待ったりしないでちゃんと寝てください。」

目を合わせて言う。

「!!!」

───こっち向くな・・・。目を合わせるな・・・。耐えろ、俺・・・。

「ね?」

彼女自身は無意識だろうが念を押す上目遣いは彼にかなりのダメージを与えた。

「わ・・・わかったから。寝ろ。」

鈴太郎は慌てて目が合わないように衣緒を自分の胸に強く抱きしめる。

「・・・あったかいですね。」

───身も心も、じんわり溶けていく感じ。

「そんなこと言ってないで早く寝ろって。寝ないと・・・。」

───俺がどうなっちゃうか・・・。

鈴太郎はもはや、なりふり構っていられなくなっていた。

「寝ないと?」

「・・・お化けが来る。」

───俺は・・・なんてくだらないことを・・・。いくら彼女でも信じるわけない・・・笑われるに決まってる・・・。

「えっ・・・嫌です。何より苦手です怖い話。」

───そんなばかな、と思うけど、葉吉さんは冗談言えないから、本当なのかな。このマンション、そうなの・・・?確かにそんな不思議な雰囲気ある。あ、ここの雰囲気に合った、テーマパークにいるようなファンタジックなお化けがいるんだろうか・・・。

「だから早く寝ろよ。」

───し、信じた!!

「はい。寝ます。」

その瞬間彼女は寝息を立て始めた。

「・・・。」

───本当に寝た・・・プレッシャーかかると寝れないんじゃなかったのか?よっぽどお化け嫌いなんだな。ほんと寝つきのよさ世界記録はだてじゃないな。

「おやすみ。」

ホッとした気持ちと残念な気持ちが入り混じったまま、彼女のおでこにキスを落とした。
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