みずあめびより
鈴太郎は遠慮がちに恒のことを見る。年齢は自分と同じくらいだろうか。知的で見た目も話し方も柔らかな男だ。

恒はゆっくりとした口調で衣緒に話しかける。

「今日、仕事で来たの?なんかかっちりした格好だし。」

「あ、ううん。チケットもらって。出張帰りなんだ・・・。」

「出張かー。いや、衣緒ちゃんが社会人なんてなんか信じられなくて。でも、しっかり活躍してるんだね。」

「そんなことないよ・・・。」

「俺、いない方がいい?」

衣緒は鈴太郎の声に穏やかでない感情を感じ取りビクリとしつつ、無言で彼の服の袖を掴んだ。

恒はそれを見て言う。

「衣緒ちゃん、今幸せなんだね。」

「うん・・・。」

「よかった。俺、正直あの時無理してた。俺は未熟で自分のことで精一杯で、衣緒ちゃんのこと全部受けとめるなんて本当は出来ないのに、かっこつけて『受けとめてやる』なんて言って、結局受けとめきれなかった。本当は弱いのに、衣緒ちゃんのこと子供扱いして、弱いところ見せられなかった。心開ききれてなかったんだ。ちゃんと話し合えば良かったのに、連絡しないでごめん。」

「ううん。私、子供だった。甘えてばかりでごめんね。恒くんだって仕事で色々あったでしょう?私が精神的に支えなくちゃいけなかった。相談してもらえなくても・・・相談するのがしんどい時もあるし・・・それでも出来ることたくさんあったのに。連絡が来なくなってからも、就職して忙しいからってそのままにしちゃったし・・・。」

少しの沈黙の後、恒が口を開いた。
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