【女の事件】とし子の悲劇・4~遺恨の破砕波(おおつなみ)
第15話
とうとうアイツの父親と姉は『とし子さんが話し合いに応じないと言うたので、あきらめてくれ!!』と友人の妹さん夫婦から言われたので、許してもらえなった。

いよいよ、遺恨の破砕波(おおつなみ)は怒濤(どとう)のごとく大きくなって、アイツの家の中により濃い塩分とよりきついにおいの重油がおりまざった海水が入り込んだ。

ドラマは、いよいよ終わりの時を迎えた。

8月26日の早朝のことであった。

アイツの姉は、さよこが部屋の中にいないので、どこへ行ったのかなと心配になった。

その時であった。

「さよこ!!さよこ!!オーイ、さよこ!!どうしたのだよ…さよこ!!」

この時、浴室の方でさよこのお見合い相手の男性がひどく騒いでいたので、アイツの姉は一体何が起こったのかと不安になった。

アイツの姉が急いで浴室に行った時、浴室は地獄と化していた。

「ギャー!!」

浴槽の中のお湯が真っ赤に染まっていたので、アイツの姉は悲鳴をあげた。

大変だ…

さよこが…

リスカして…

心肺停止におちいった…

誰か…

急いで救急車を呼んで!!

さよこが…

リスカした…

急いで…

お願い!!

アイツの姉は、近所中に救急車を呼んでとお願いした。

その頃であった。

アタシは、赤茶色のバッグを持って由比ヶ浜のアイツの家の近辺へ行った。

アタシは、この目でアイツの家の最期を見届けようと思って、由比ヶ浜にやって来た。

アタシがアイツの家の前についた時であった。

家の前に鎌倉市の消防本部の救急車とタクシーが止まっていた。

アタシは、電柱の影からながめた。

「さよこ!!さよこ!!オーイ!!死なないでくれ!!さよこ!!さよこ!!」

さよこを乗せた救急車は、けたたましいサイレンを鳴らして、鎌倉市内の救急病院に搬送された。

その後、家族のみんながタクシーに乗って救急車のあとをついて行った。

アタシがその場を立ち去ろうとした時、近所の奥さまたちが『きよひこの家はバチが当たったのよ…』とヒソヒソと話していたのを聞いたので、アタシは奥さまたちに聞いてみた。

「あのー…ちょっとお聞きしたいのですが…きよひこの家はバチが当たったといいましたね…どなたか急病人が出たのですか?」
「ああ…きよひこの家のことね…きよひこのお姉の娘が、リスカしたのよ。」
「リスカ…」
「そうよ。」
「どうして?」
「どうしてって、あんた、なーんにも知らないのね…8月23日に茅ヶ崎の雑木林で発生したレイプ事件のことを苦にリスカしたのよ…」
「レイプ事件を苦に、さよこがリスカした…」
「容疑者の男のグループの身元が分からないままになっていることと、ケーサツへの不満を口にしていたわよ。」
「お見合い相手の男性には申しわけないけど、北海道に出張だとウソついてソープの女の部屋に入り浸りになったこともふくめて、あの家はバチが当たったのよ。」
「そんな…」

このあと、奥さま方は口々にこう言うた。

「さよこのお見合い相手のことだけど…ソープの女のことをめぐって、やくざとトラブったみたいよ…女をつまみ食いしていたから、さよこさんがレイプの被害を受けたのよ…」
「サイテーね…」
「きよひこの父親もクソジジイだから、きよひこがDVとレイプの加害者になったのよ…」
「お姉もお姉ね…」
「アタシ、きよひこのお姉のこと知ってるのよ…きよひこのお姉ね、亡くなった長男がお受験に失敗したことを苦に母子で心中したけど…長男を死なせて、自分だけヌクヌクと生きているみたいよ。」

近所の奥さま方は、口々にアイツの家の悪口を言い続けた。

いよいよ、アイツの家が激しい潮流と共に根こそぎ流されて行く瞬間がやって来た。

アタシは、この目でアイツの家の最期を見届けるために、しばらく鎌倉に滞在することにした。
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