【女の事件】とし子の悲劇・4~遺恨の破砕波(おおつなみ)
第2話
それから2日後の5月10日のことであった。

ところ変わって、鎌倉・由比ヶ浜にあるきよひこさんと家族が暮らしている一戸建ての家にて…

きよひこさんは、シングルの弟のかずひこさんとほぼ寝たきりの父親の男3人がひとつ屋根の下で暮らしていた。

きよひこさんには、過去に5~6度離婚歴があった。

最初の嫁さんが大病で亡くなったあと再婚をしたが、2度目以降は夫婦間の深刻な対立が原因で短期間の間に離婚と再婚を繰り返していた。

シングルの弟のかずひこさんは、39歳になったので早く結婚がしたいと気持ちがあせっていた。

かずひこさんは、コンカツがしたいとけど、周囲の理解が得られないと思い込んでいたのであきらめかけていた。

かずひこさんが勤めている缶詰め工場のお給料が低いことがネックになっていたことと、兄の離婚歴などが原因であった。

この時、敦賀からアタシの知人の妹さん夫婦がきよひこさんたちが暮らしている由比ヶ浜の家にやって来て、きよひこさんに再婚してほしいとお願いした。

家の居間で、こんな会話が繰り広げられていた。

「考え直してみてはどうかと言うけれど、何を考え直してくれと私に言うているのですか!?」
「私たちは、きよひこさんにお願いを聞いてほしいのです。」
「お願いを聞いてほしいって…かずひこに結婚をあきらめろと言いたいのでしょ!!」
「そんなことは言ってないよぉ…かずひこさんは39歳になっているから…」
「かずひこが39歳だから、何だと言いたいのですか!?40になるから条件が悪くなるからと言いたいわけなのでしょ!!」
「いや、私たちは40過ぎになったら難しくなるのではないのかと心配になっているのだよぉ…かずひこさんが結婚をしたいと言うても…」
「フられて傷ついたらかわいそうだと言いたいのでしょ!!」
「だから、かずひこさんが恋人さんにふられて傷ついてしまったらかわいそうだから、きよひこさんにお願いしているのだよぉ…」
「だからお願いって何なのですか!?口ごもった声で言わないで下さい!!要は、私に再婚しろと言いに来たのだろ!!」

きよひこさんの言葉に対してアタシの知人の妹さんのダンナさんはあつかましい声で『そうだよ…きよひこさんに再婚をお願いしに来たのだよぉ…』と言い返した。

「きよひこさん…かずひこさんが勤めている缶詰め工場のお給料が少ないみたいだね…そんな少ないお給料でどうやってお嫁さんを養うのかと言うことを考えたことはあるのかね…40過ぎの男の初婚は世間体…」
「世間体がどうしたと言うのですか!?決めつけるのもいいかげんにしろ!!」
「決めつけてなんかはいないよぉ…」
「決めつけているじゃないか!!少ないお給料だと結婚ができないと言うコンキョがどこにあるのだ!?」
「お給料が少ないこともあるし、かずひこさんは独身でいた方がいいと思って言うているのだよぅ…女性のきょうだいが4人いたけど、4人とも遠方へ嫁いでいるから帰ってくるメドがたたない上に…お父さまの介護の問題などがあるから、きよひこさんに再婚してほしいと言うているのだよ…温かいごはんとみそしるをついでくれる人がいない…かずひこさんにおいしい目玉焼きを作る人がいないなんてさみしいじゃないか…」

きよひこさんは、チッと舌打ちしてからアタシの知人の妹夫婦に『帰れ!!』と言うた。

「帰ってくれ!!」
「帰ってくれ!?」
「そうだよ…さっきから聞いていたらかずひこのことを否定するだけ否定しているじゃないか…」
「何を言っているのだよ…私たちは、かずひこさんのためを思ってきよひこさんに再婚のお願いをしているのだよ…」
「断る!!帰れ!!」
「私たちはこのままでは帰ることができないのだよ…」
「よその家に居座る気か!?」
「居座る気はありませんよぉ…」
「なら帰れ!!」
「このままではホンマに帰れないのだよ…」
「誰に頼まれてここへ来た!?」
「誰って、義姉(あね)に頼まれて来たのだよ…義姉の知人の女性を助けてくれと言われて…」
「断る!!他へ回せ!!」
「他へ回せって…あんた本気で言ってるのかな…」
「そうだ!!」
「他へ回せと言うけど…義姉の知人の女性は9度も離婚と再婚を繰り返してばかりいるのだよぅ…他へお見合いの話を持って行きたいけど、年齢的に難しいのだよ…」
「難しいからこっちに押し付けたのか!?」
「押し付けていないよ…きよひこさんに幸せになってほしいからお願いしているのだよ…」
「帰ってくれ!!あんたらの話はみーんな押し付けなのだ!!オレは幸せになりたいと思っていない!!」

きよひこさんは、アタシの知人の妹さん夫婦を力付くで追い出そうとしていた。

この時、奥の部屋でお父さまが具合が悪い声できよひこさんを呼んでいたので、アタシの知人の妹さんのダンナさんはこう言うた。

「きよひこさん…奥の部屋にいるお父さまのキゲンが悪くなっているよ…お世話をしてくださる人がいないからさみしいと泣いているのが聞こえていないのかな…」

きよひこさんは『構うものか!!』と怒って、アタシの知人の妹さん夫婦に物を投げつけて強引に追い出した。

結局、話し合いは平行線に終わった。

アタシの知人の妹さん夫婦は、ひどくあせっていた。

アタシは、もう再婚をしたくないと言う気持ちに変わりはないので、お見合いを引き受ける気は全くない。

お見合いをしても、相手はクソバカ以下の男ばかりだし、相手方の家の親きょうだいか相手の連れ子と同居だし…

アタシも男がらみ(特にヤクザかホストがらみ)のもめごとばかりをくり返しているから…

再婚しても、また同じことの繰り返しになるだけよ。
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