近くて遠い私たちは。
 最後に見たのはサクが高校を卒業する年だったから、四年半ぐらい前になるが、寝起きのあの無防備な姿にすら、色気を漂わせる狡い男だ。

 自分の魅力を最大限に活かし、それを自覚しているからこそ、女癖が悪く、サクは特定の彼女を作らない。きっといつまでも自由でいたいからに違いないが、そんなのは自己中心的で、卑怯で狡い男の言い訳だ。

 サクを心の中でそう非難しながら、私はサクを想うのを辞めなかった。辞められなかったと言った方が正しいかもしれない。

「お前、髪にゴミ付いてるぞ?」

 そう言って何の躊躇いも無く、私の長い髪に触り、それを取り除いてからポンと頭を撫でられる。

「仮にも女だろ、ちゃんとしろよ」

 サクのたまに見せる笑顔が私の胸をギュッと絞り、ポッと恋の火を灯す。

 中学の頃はあんなに私を拒絶した癖に、高校生になった頃のサクは、過去など何処吹く風で、普通に私と接するようになった。

 ただ一つ、呼び方に関しては一歩も引かず、「兄貴と呼べ」と言い続けているけれど。

 サクとまだ同居を続けていたあの頃は、彼は間違いなく身近な存在で、私は性懲りもなく、彼が私を守る存在だと信じきっていた。

 サクの姿を見るだけで、声を聞くだけで胸が高鳴り、抱き付きたい衝動にすら駆られた。いつしかサクへの気持ちが溢れ出し、もうこれ以上は心の中に仕舞い込めなくなった。

 あれは高一の夏だ。私はサクに告白をした。

「あのね、笑わないで聞いて」

「なんだよ?」

「私、兄貴が好き」

 サクは不意に黙り込み無表情になった。
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