近くて遠い私たちは。
 私だって決してモテなかった訳ではない。ただ、他の誰かじゃ駄目だったのだ。高校生の頃も、大学に入ってからも、異性に告白される事は有ったけれど、決まって思い浮かぶのはサクの顔だった。

 両親と私の三人暮らしの家に、一週間か二週間のスパンを空けて、サクが差し入れを持って帰って来る。ふらっと顔を見せたと思ったら、一時間もしない内にまた出て行く。

 実家にはサクの私物なんてもうほとんど残ってないのに、何故か帰って来る。

 既に物置と化した自分の部屋で、サクは暫くぼんやりしてから家中を歩き回り、そして家を出て行く。

 両親に会いに戻って来ているという感覚は全くない。サクが帰るのは二人がいない時間帯だし、元より、サクは中三のあの日以来、母との仲が良くないのだ。

 時々義父の部屋に入っているのを見掛けて、私は変に勘ぐった。

 義父の部屋に何か秘密でもあるのだろうか?

 もしかしたら義父のへそくりの居場所を知っていて、お金目的で帰って来るのかもしれない。

 そんな疑念を膨らませた。



「これ美紅の洗濯物か?」

 突然の事にビクッと肩が震えた。

 夕食と入浴を済ませてから、自分の部屋で寛いでいる時だった。

 ノックもせずにガチャッと扉が開いて、義父が顔を覗かせた。

「えっ、あぁ……」
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