俺様社長は溺愛本能を隠さない

ここで二人は話しながらガラス扉の中へと戻って行ったため、私もゆっくり閉まる扉の中にこっそり紛れ、彼らの背中にくっついていった。

「やっぱり有村さんのこと好きだったんですか。返事はどうでした?」

「どうもこうも、まともな返事が貰えてない。イエスかノーか、返事なんて二つにひとつなのに、アイツは何をそんなに悩むんだ」

私がその言葉にムッとしたのと同じく、若林君も違和感があったらしい。
呆れた声のトーンで「社長……」と呟いていた。

「彼女はいらないって言い切っていたのは社長でしょう。それなのに次はコロッと好きだって言っても。有村さん、社長の告白をどう受け止めたらいいか悩んでいるんですよ」

「なんでだ。そのときはそう思ってたんだから仕方ないだろ。俺は言うことは言ったんだから、そのまま受け取りゃいいのに。有村に男ができたら困る。結婚なんかしたら秘書だって辞めるかもしれないし」

……ん……?

膨らんだ気持ちに針を刺された感じがした。
だってそれって……

「……社長。それって、秘書を辞められたら困るから、有村さんに告白したってことですか?」

「そうだ。有村に秘書を辞められたら困る」

忍び足が棒のように止まり、彼らの背中が離れていった。
体が冷たくて動かない。

……ほらね。
都筑さんは必ず、上げたら落とす。
いつもそうだった。

冷静に聞いていたつもりだったのに、持っていたホームセンターの袋が左手から滑り落ち、ビシャンと床を叩く音が鳴った。

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