俺様社長は溺愛本能を隠さない

音のせいで、先を歩いていた二人が振り向いた。

私がいることに気付くと、若林君は「有村さんっ……」と顔を青くするが、都筑さんはいつもの調子で「有村、いたのか」と言うだけで、まずいことを言ったという意識すらないらしい。

「都筑さん……」

落胆しすぎて掠れた声が出て、自分でも驚くくらい、溢れてくる感情を抑えきれなくなった。

呟きとともに目頭が熱くなって、視界が潤んでくる。

「ちょ、有村さんっ」

水分がボタリと目からこぼれ落ちて頬を伝ったとき、慌てた若林君が私の顔を覗き込んで腕に触れてきた。

やばい。私泣いてる……。

「有村……?」

都筑さんは目を見開いてこっちを凝視していているが、取り繕う様子も謝罪をする様子もない。
私の泣く姿を初めて見て驚いたのかもしれないが、原因が自分だとは思いもしないのだろう。

「なんで泣くんだ有村。何があった」

「ちょっと社長……そりゃないですよ……」

若林君の腕が背中にも回される。私はそれにすがった。
すると都筑さんもこちらへ寄って来て、若林君の腕をどけ、私の顔を手で挟んで覗き込んでくる。

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