俺様社長は溺愛本能を隠さない
上を向きながら数分歩いてマンションのエントランスに到着すると、細い路地に見覚えのある車が横付けされていた。
国産の、白のハイブリッド。
ああ、嘘でしょ……。
思わず漫画みたいに電柱の影に隠れていた。
今日は誰かさんのせいでやたらと隠れることが多い。
こちらからは運転席側がばっちり見えており、そこにはオフィスで別れたはずの都筑さんがいるのも確認できた。
私は電柱から離れてさらに路地に入り、そこに背をつけて電話を取り出した。
警察にかけてやりたいところだけど、まずはそこにいる都筑さんにかけてみよう。帰ってくれって。
オフィスであんなことがあったのに家に車で乗り付けるなんて、都筑さん本当にどうかしてるって……。
『有村?』
「都筑さん。帰ってください」
『お前どこにいるんだ?』
「私、今日は家には帰りませんから。だいたいですね、少し時間を空けてもらえませんか? さっきあんなことがあったのに普通すぐに家に来る人がいます? しかもアポ無しで。非常識ですよ。それに私の方はもう話すことはありません。もし私が泣いたことを気にされているなら心配ご無用ですよ。忘れていただいて結構です。とにかく、こんなところに車で待っていられたら迷惑……」
そこまで言って、私はやっと気配に気づいた。
「なら、どこに停めればいい?」
電話を耳にあてていた腕の仕切りの向こう側に、私を覗き込む都筑さんの顔があった。