俺様社長は溺愛本能を隠さない
ヒールで転ばないようにどうにか膝から降りながら、彼の手も振り切り、着地する。
「有村」
「い・い・で・す・か。私は秘書であってコンパニオンではないんです。お手持ちの女性でも乗せてどうぞ走ってきて下さい!」
ここまで言うと彼はムッとした様子で鞄を裏手で持つと、「なんだお手持ちって」とブツブツ文句を言いながら出て行った。
本当は、仕事人間の彼にお手持ちの女性なんていないことは知っている。
でも仕事が溜まっているし、今日こそは都筑さんに付き合ってられない。
私が満足して自分のデスクに戻ろうとすると、色とりどりのデザイナー達四人の視線が、すべて私に向いていることに気がついた。
「……何ですか?」
私が尋ねると、マッシュの若林君が言った。
「社長と有村さんって、付き合ってるんですか……?」
若林君は新しい人だから、私と都筑さんのやり取りを見慣れていない。
都筑さんの強引な性格と、それに付き合わされっぱなしの私との関係は、傍目にはそう写るのかもしれない。
「付き合ってないですよ」
そう答えたのに、彼は信じられないらしく隣の席にいるピンクの佐野さんに「本当に?」という視線を向ける。
佐野さんは、私の代わりにそれに返答した。
「付き合ってないらしいよ。私達も信じがたいんだけど」