俺様社長は溺愛本能を隠さない

「それじゃあ莉央さん、行ってきますね」

続いて準備が整った桃木さんも白のハンドバッグを持って手を振ってくるが、私は呆然とすることしかできない。

すると彼女は、ピンクの唇を私の耳元に近づけて、最後に耳打ちをした。

「莉央さん、どうして私がここの秘書に呼ばれたのか教えてあげますね。京さん、莉央さんが辞めちゃうかもしれないから、私に来て欲しいって誘ってくれたんですよ。……だから安心して、京さんのことは私に任せて下さいね」

そう囁くと、桃木さんは三日月のような笑みを浮かべ、都筑さんを追ってオフィスを出ていった。

残ったのは静寂と、甘い香水の香りだけ。

「……有村さん。大丈夫ですか」

佐野さんが私に声をかけた。
他の三人も、気の毒そうに私を見ている。
心配されているということは、よほど今の私は傷ついた表情をしているのだろう。

なんかもう訳が分からない。
ついさっき、私は都筑さんの恋人になったのだ。本当についさっきの出来事なのに。

それなのに、都筑さんは私の特等席だった助手席に、迷わず桃木さんを指名した。

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