俺様社長は溺愛本能を隠さない

若林君はそれでもピンと来ていないようなので、私は彼との思出話を披露することにした。

他の三人も都筑さんのエピソードに興味があるらしく、手を止めてニヤニヤと私の話を聞く体勢をとっている。

「私は彼の秘書になって三年になりますけど、一度だけ、誕生日にドライブに誘われたことがありました。祝ってもらえるのかと思ってたんですけど、途中でデザイン案が湧いてきたとか言って海に着く手前で引き返され、会社に戻ってデザインをし始めたんです。腹が立ったので今日は誕生日だったんだと伝えると、都筑さんは『なら早く帰ってケーキでも食べろ』と私の手に千円握らせて帰されました」

「うわ……」

「まだありますよ。私、一年目のバレンタインには都筑さんに市販のチョコレートを贈りましたが、ホワイトデーは無視でした。ロングヘアをショートカットにして出社しても一言もありませんし、私の洋服に値札が付いていても気づきません。都筑さんって、実はビックリするくらい私に興味がないんですよ」

後半は苛立ちが抑えきれず語気が強まったが、私は深呼吸をして顔を戻した。

ようやく若林君も都筑さんが厄介であることに気づいたらしく、今度は彼の方がひきつった顔をしていた。

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