イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!

「……え?」

たかが?

一瞬の空白。

軽く肩をすくめた坂田くんを、穴が開くほど見つめてしまった。
そんなわたしの様子に気づいたんだろう。

「あ」ってバツが悪そうに、切れ長の瞳が揺れた。

「言い方きつかったよな。悪い、ちょっと寝不足で気が立ってるのかも」

そっか。
やっぱり不足って、睡眠のことだったんだ。

「う、ううん。大丈夫。気にしないで。忘れて」

「ごめんな。イブは無理でも、どこかで必ず時間作るから」

「うん……わかった」

乾ききって慄く唇を、なんとか引き結ぶ。
打ちのめされた自分を、必死で押し隠しながら。


イブは、無理――それはつまり。

わたしじゃない。
わたしじゃ、ない。

彼がイブを過ごす人は、他にいる。
その人が、本命――……?



震える手で拾い上げた缶は、もうすっかり冷めていた。


< 273 / 539 >

この作品をシェア

pagetop