イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!
12. 別れ

『ごめん、今夜はやっぱり行けそうにない』

「……そっか」

居酒屋の廊下。
サンタコスプレのスタッフを見送りながらこぼした言葉は、やけに沈んだトーンになってしまった。
そんなわたしに気づいたのか、

『寂しい? オレに会えなくて』

携帯の向こうから揶揄うような声がした。

「べ、別に……っそんな、ことは……」

とっさにアタフタ、反論してみるものの。
図星を指されて狼狽えたことは丸わかりだ。
くすくす、耳元で軽やかな笑い声が響いて、羞恥心に頬が熱を帯びていく。

「じ、じゃあ、みんなにはわたしから伝えておくね。仕事頑張って」
『悪いな。あ、そうだ。お持ち帰りとかされんなよ?』
「だっ誰も興味なんてないよ、わたしのことなんて!」

『ったく、自分知らなさすぎ……』
「え? 何か言った?」

『なんでもない。念のため、家に帰ったらラインだけ送って』

何それ、って吹き出しちゃった。
「大丈夫だよ。子どもじゃあるまいし。ちゃんと帰れるよ?」
『いいから! わかったな?』

心配だからと念押しされて、拗ねていた気持ちがわずかに緩んだ。

仕事だもんね、仕方ないよ。
通話をオフにしたわたしは、気持ちを切り替え。
目指すお座敷へと廊下を引き返した。

< 274 / 539 >

この作品をシェア

pagetop