イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!

見つめていると、何かを取り出して――

「平気そうならこれ、返しとく。見たくないって言ってたけど、やっぱりお袋が持ってた方がいいと思うから」

ポトン、としのぶさんの手の中に落とされたもの、それは――あのジッポーだった。


「うわぁ……懐かしい」

しのぶさんは、そう言ったきり口を噤んで。

長い間無言でそれを眺めてから、おもむろに話し出した。


「……ねえ美弥子ちゃん」
「はい」

「これね私が主人にあげたの。付き合い始めて初めての、クリスマスに」
「そうなんですか。素敵なクリスマスプレゼントですね」

「それほど高価なものでもないんだけど、彼、すごく気に入って。これしか使わなくて。新しいの、買えばいいのにって何度も言ったのに、これがいいんだって、聞かなくてね……」

語尾が震え、

ぽたっ……

シルバーのフォルムに、雫が落ちて、跳ねた。

< 492 / 539 >

この作品をシェア

pagetop