イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!

そう。
彼が“本気の恋愛はしない”男だってことは、周知の事実だ。

いつだったか、そう言って女の子をフッてると噂になったことがあったせいなんだけど。
そりゃもう、いろんな憶測が飛び交った。

曰く。
婚約者が浮気して、捨てられたそうだ。
いや、相手は人妻らしい。
いや、ヤクザの情婦に惚れてボコボコにされたらしい。
いや、クライアントの令嬢を狙っているらしい。
いや、実は彼は名家の出で、すでに婚約者がいるらしい……etc.

本人が否定も訂正もしないから、ほんとのところは誰も知らないけど。

「要するに女好きってことでしょ」
わたしがそう結論付けると、電話の向こうで『チッチッ』ってわざとらしい舌打ちの音。

『そのセリフ、正しくはちょっと違う。「今はまだ、本気の恋愛はする気ない」よ』

「一緒でしょ?」

『違うわよ、全然。例えば失恋説ならどう? きれいに説明できるわよ。“その当時”はダメだった、でもそろそろ新しい恋をする気になった。ね? その相手が、美弥子なのかも』

そりゃまぁ、あの噂が流れたのはずいぶん昔のことだ。
もしかしたら、飛鳥の言う通り……


いやいや、無理だ。

しばらく沈黙したのち、わたしはゆるゆるって首を振った。
「飛鳥だって知ってるでしょ。わたしの夢」

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