宇佐美くんの口封じ
鼻にかかる声。
私の知っているその声と名前に、無意識で足を止めてしまった。
「雅?」と、リコが不思議そうに私を見る。
そしてすぐ、私の視線の先を捉え、「あんた本当運悪いわ…」と苦笑いを浮かべていた。
「ついてくんなよ」
「でも依里、あたしの好きにしていいって言ったよ?だから好きにしてるの!」
「勝手にすれ、…ば、」
彼が、私に気づいてしまった。
視線が交わり、──そして、互いに逸らした。
今の私と宇佐美くんは、もう他人だった。
挨拶を交わす仲にすらならない、ただ同じ部活の先輩と後輩。
私はこうなることをもともと望んでいたし、きっと宇佐美くんもそうだったと信じたい。
玲に言われて危なく告白しそうになるところだったけれど、言う前にきっぱり突き放されてよかったのかもしれない。