宇佐美くんの口封じ




サラの声に異変があったのは、3曲目の曲紹介をしている時だった。

マイクに音が入らないように「ぁー、…ァー」と声を出して確かめている。




「…サラ?」



小さな声でサラにそういえば、彼女は顔を真っ青にして私を見ていた。

…まさか、と思った。



「……ぁ、でない」



掠れた声で言う。

これはまずい、と思った。
今日までずっと練習付けだったからだろうか。
ここに来てサラの声が枯れてしまったようだった。




「ど、…どうしよう…っ」




私にはかろうじて聞こえるけれど、きっと観客には聞こえていない。
サラがどんどん泣きそうになっていくのがわかる。


この曲は女の人がボーカルのバンドの曲なので、原曲キーが高いのだ。

歌が上手い玲に代わりに歌って欲しいと思うけれど、男の人にはあまりにも高すぎる。
もちろん遥馬にも無理だろう。



玲はいつも全員の目が合ってから合図を出すので、なかなか自分の方を見ない私とサラに「なんかありました?」と言いたげに視線を送ってくる。


< 207 / 234 >

この作品をシェア

pagetop