宇佐美くんの口封じ
どうしよう。
ここまで頑張ってきて中途半端に終わらせる訳には行かない。
だけど、これ以上サラに歌わせるわけにもいかない。
始まらない演奏に、少しずつ客席がざわつきだす。
このままじゃみんな帰ってしまうかもしれない。
そう思った時、ふと、目の前にいる宇佐美くんと目が合った。
"がんばって"と口パクで伝えてくるのがわかった。
宇佐美くんが見てる。
先輩のラストステージとして、こんな形で終わるなんてできない。
……私が、歌うしかないのかな。
こんな人前で歌ったことなんて無いし、怖いし、上手く声が出るかもわからないけど。
それでも、宇佐美くんが応援してくれているから。
私たちのバンドが、笑って終わるためには。
「…マイク貸して!」