終わり良ければ全て良し、けど過程も大事
結が荷物を少し持ってくれたおかげで2往復だけで運び終えた。
最後の荷物を床に置いた時、ブルっと携帯が震えた。
チュー多からのメールだ。
『社長がお呼びです!今すぐ来てください!!』
少し考えて、見なかったことにした。
結は、キッチンに立ちさっそくあの炊飯器を開封し説明書を凝視している。
「米、買ってくればよかったね」
隣に立ち、結の顔を覗き込む。
「後で自分で買いにいきます。それより、お仕事行かなくていいんですか?もう夕方ですよ」
朝のチュー多との会話を覚えていたらしい。
「いい。どうせ今日は身内の打ち合わせだけだし、切羽詰まったら迎えに来るはずだから」
そうですか、と言うと再び炊飯器に意識が向く。
説明書に視線を落とす伏し目がちな瞳が可愛い。
化粧をしてない長いまつ毛が不規則に揺れる。
耳にかけていた髪がはらりと落ちて鬱陶しそうに顔を横に振るのを見てつい手がのびる。
落ちた髪を耳にかけ直してやると同時にビクッと肩が震え俺を見上げる。
「食料品はさ、一階に住居者専用のお店があるからそこで買って。基本なんでもあるから、マンションの外出ないでね」
このままずっと俺を見てくれていればと思い話を続ける。
「仕事に行くときはチュー多か、もう1人俺のマネージャーがいるからどっちかに迎えに来てもらって。2人がつかまらないときは事務所の別の人間でもいいから。これ、事情を知ってる人のリストと連絡先ね。勤務時間も書いてるからこの時間内ならいつでも頼っていいよ」
メモを目の前に出しても結は説明書から手を離さなかったので仕方なくキッチンのカウンターに置いた。
「もし誰も呼べなかったら必ずタクシー使って。あ、領収書貰っといてね」
カウンターに置いたメモを手に取りしばらく沈黙の後、結が顔をあげた。