終わり良ければ全て良し、けど過程も大事
「ごめんなさい。あと2、3分かかると思うんですけど…その間に髪乾かしてきたらどうですか?」
覗き込むほど近づいていたせいか結の顔に髪が当たっていたようだった。
「あ、ごめん」
慌てて離れ少し濡れた結の頬にタオルを当てる。
「もう少しで終わるんでしょ。だったら結が乾かしてよ」
「え?」
「ダメ?」
受け入れてくれると分かった途端これだ。
甘えるように微笑むといつもの困った顔をしながら「いいですけど…」と呟く。
脱衣所に戻りドライヤーを手にすると鏡に映る俺が目に入った。
どうしようもないほどにやけて、まるで初めて恋人ができて浮かれている男がそこにはいた。
浮かれる。
女の子に髪を乾かしてもらうのは初めてじゃないのになんでこんなに嬉しいんだろう。
リビングに戻るとちょうどセーブできたのかゲーム機を机の上に置いていた。
近くのコンセントに電源を差し、両手でドライヤーを渡す。
「お願いします」
「人の髪乾かしたことないので、熱かったら手あげてくださいね」
歯医者みたいだなと思い思わず笑う。
「分かった。ちょっと足開いて?」
結の膝に触れ、そう言いながらソファーに座る結の足と足の間に入り込み背を向けるように床に座った。
結がいまどんな顔してるか分からないけどたぶん照れたりはしてないんだろうな。
ちょっと不満そうにしてるのかもしれない。
始まるまでに少し間があり、ようやくドライヤーのスイッチが入った。
結の手が髪に絡む。
触れてなくても細くて柔らかい小さな手だなと感じる。
ドライヤーの音がうるさくて会話はできないけど髪から、背中から感じる結の気配だけで十分幸せな気持ちになれた。