終わり良ければ全て良し、けど過程も大事
あまりにも顔色が変わらないものだから思わずはむっと鼻に食らいつく。
びっくりして一瞬目をつぶった結はおそるおそる目を開いた。
「唇にキスできないから、それ以外のとこにいっぱいキスしていい?」
パチパチと瞬きをする結が可愛くて返事も聞かずゆっくりキスを落とした。
おでこ、まぶた、ほっぺ。
夕方みたいな拒絶はなさそうでホッとする。
「耳、舐めていい?」
そう聞くと結の顔が強張った。
あの時と同じ、嫌悪の表情だった。
「ごめん。嫌?」
視線を落としながら小刻みに首を横に振る結は少し泣きそうな顔だった。
「ごめん…嫌なことはしないよ」
ついに溢れてきた涙を指で拭う。
結のこんな表情初めてなのになぜか落ち着いていられた。
「違うんです」
左耳、左首筋に爪を立てる結の隣に座り背中を撫でる。
「高校生の時…付きまとわれてた男の人に、同じことされたことがあって」
手が止まる。
考えれば予想できたのになんで気付かなかったんだろうか。
経験がないって言ってたから、ストーカーって言ってもただしつこく交際をせまられてきただけなんだと勝手に思い込んでた。
未遂がないわけじゃないんだ。
あの殺風景な部屋も、身軽さも、異常な結の生活スタイルから普通の被害レベルじゃないぐらい想像できた。
”男”に照れないのも、媚びないのも、頑張って平常心を保ってるんじゃない。
”男”を軽蔑してるからなんとも思わないんじゃないのか。
よく見ると、左耳と左首筋がかいた後で赤くなっている。
夕方俺がつけた”跡”の辺りも。
背中を撫でていた手を腰に回し抱きしめた。
「気付かなくてごめん」
今日何度謝っただろうか。
俺の軽い謝罪なんて結に何も響いてなかった。
認めたくないけど、俺も結を苦しめたストーカー達と同類だ。
自分のエゴのためにとりあえず場をなだめればいい。
ペースに持ち込めばこっちのもん。
そのためには優しくすればいい。
自分のエゴのために、結に嫌なこと思い出させた。
自分のエゴのために、結にとんでもない契約をもちかけた。
こんなの嫌われて当然だ。