サヨナラなんて言わない。


「お母さん。」

「ん?なに?」

「ごめんね、ありがとう。」

「なに?着付けくらいで大袈裟ね。」

変な子と笑って母はキッチンへ戻って行った。

何故、突然こんなこと言ったのか私にも分からなかった。

ただ、言わなきゃいけないと思った。

思い返せば、あの余命宣告を受けた日からお母さんは普通通りだった。

余命がわずかだからと言って泣いたりしなかった。

だけど、時折さっきのように悲しい顔をする。

当たり前だと思う。

自分より先に子供がいなくなってしまうのだから。

私は親不孝をする事になる。
でも、はっきりと謝る事が出来なかった。

"病気になってごめんね"と。
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