砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命
ハッとまぶたを開けば、見慣れた自室の天井が視界に飛び込んできた。

「目が覚めたか」

思いもかけない声のほうにカインはゆっくりと顔を向けた。
そこには夢の中と同じように、怒りの表情をたたえたアベルがいた。痛いほどにカインの手をぎゅっと握っていたのは夢じゃなかった。

「いらしてたのですか」

「お前、俺に報告することはないか?」

一瞬、心臓が跳ねる。だが、ゆっくりとベッドから半身を起こしながらカインは冷静に思考を巡らせた。

「体調が戻るまで二、三日お休みをいただきたいと思います。ご迷惑をおかけします」

「二、三日?そんなもので済むはずなかろう。
……カルヴィン・オルディン公爵は病気療養のため、しばらくの間、国境近くの森の奥にある古城に行け」

いつもそばにいろと言っていたアベルが、いきなり遠方へとカインを遠ざけようとしている。
まさかと思うが、体調不良の原因を知られたのだろうか?

「必要ありません」

「誰も近寄らない人里離れた古城で子を産め」

カインはビクンと体を震わせる。アベルの言葉がカインを凍らせた。

「仰っている意味がわかりません」

「俺はその子に会いたい。ずっと俺の子供はお前に産んでもらいたいと願っていたんだ」

ーー会いたかったよ。

先程の夢でアベルが少年に優しく語りかけたのと同じ言葉がカインに向けられた。

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