砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命
「モレー、どうして今のが足だと分かった?」
「カルヴィン様は痩せてらして、赤ちゃんからの衝撃がわかりやすいのです。ですから可愛らしい足の形がわかりましたよ」
「なるほど。急に動き出したからよく見てなかったよ」
「アルベルト王子の声が分かったのかもしれませんね」
「何?お腹の中でも声がわかるのか?」
「はい。お父さんお母さんの声に反応するのはよくあることですから」

カインはまた手帳を取り出した。手帳は書き込みすぎて真っ黒だ。

「些細なことも、書き込むんだな」
「はい。一生に一度、貴重な経験です。
妊娠して初めて知ったのですが、フォトキナ王国には妊娠出産に関する研究書物が皆無なのです。すべて、産婆の経験から伝承するだけ。
女が命をかける戦いだと言うのに、戦術も、戦法も、産婆の経験だけなんて。
きちんと研究すれば妊娠や出産で母子ともに命を落とすなんてことも、減るかもしれません」
「…さすがだよな、カインは。ただ…一生に一度かは、わからないぞ」
「え…」

アベルが一枚うわて。カインは小さく口をすぼめて、困った表情を浮かべる。


本来であれば、一生経験するはずのなかった妊娠だ。しかも、アルベルトの血を継ぐ大事な赤ちゃん。元気に産んであげたい。その思いから、気づいたすべてを記録で残しておくことにしたのだ。

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