砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命
アベルは月明かりを頼りに茂った森の中を愛馬に乗って駆け抜けた。愛しき人に会いたくて毎週のように通った道だ。夜だとて迷うことなどない。

古城が月あかりに浮かび上がる。
いつもならモレーが飛び出して来てくれるが、今夜はその重厚な扉をみずから開けた。

とたんに、赤子の泣き声が聞こえた。広い城内にとどろくほど大きく元気な泣き声だ。


「まぁ、アルベルト王子様!?」

たらいを手に廊下を走っていたモレーがアベルの姿に気づいた。

「こんな時間にすまない。居ても立ってもいられなくて」

「どうぞ、こちらへ。元気な男の子です」

モレーに案内された部屋の扉を開けると、一層大きな泣き声がした。

ぐったりとベッドに横たわるカイン。精も根も尽き果てた様子だ。その傍らには全身の力を込めて真っ赤になって泣く赤ん坊がいた。

「…アベル?」

「あぁ、いい。そのままで。お疲れ様。よく頑張ったな、カイン」

アベルに気づいて起き上がろうとしたカインを止める。アベルは泣いている赤子の手に恐る恐る触れた。
小さくて、温かい手だ。
するとモレーが慣れた手付きで赤子を抱き上げた。

「両手で支えるように。こちらの手で首を支えてください。そうです」

モレーに教えられながら、初めて抱き上げた赤子は、本当に小さくて柔らかくて軽かった。

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