砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命
「アルス。子供がこんな時間まで起きていてはいけない。成長の妨げになる」

アベルの後ろからカインが厳しい口調で諭す。
とたんに空気がキリリと冷える。アルスから笑顔が消え、体はビクッとこわばり、一瞬でシュンとしてしまう。

「はい。ごめんなさい、カイン。……あ」

アルスは素直に謝ったあと、眉間にシワをよせ困った表情を浮かべた。

「マナーのせんせいにちゅういされたんだ。ちちうえとおよびなさいって」

アルスに自分を父とは呼ばせない。
それはささやかなカインのこだわりだったのだが。

「そうか。マナーの先生は、マベール夫人だったね。夫人には私から言っておく。
アルスは今まで通り私をカインと呼びなさい」
「でも、みんなそうしてるって」

よほど厳しく言われたのだろうか、アルスの顔は晴れない。

「皆?他の家の真似などする必要はない。
わがオルディン家ではアルス、君と私の関係は等しい。もちろん、子供の君は私の保護下にはあるが、私と同じ目線で色々なことを見聞きし吸収してほしいから」

アルスと視線を合わせて、カインは静かに諭す。

「おいおい、そんな難しいこと言ったってアルスには理解できないだろう」

呆れ顔のアベルにアルスは首を横に振ってみせた。

「だいじょうぶ。カインは、ぼくをいちにんまえのオルディンのおとこだっていってる」
「アルスは利口だな。すごいぞ」

褒められて喜びを爆発させるアルス。
アベルは本当にアルスに甘い。だが、悪くない。心の底から甘えさせてくれる相手の存在は、アルスの心の支えになっている。

父にも母にもなれない、ただの保護者の自分だけでは足りない、愛情の補給をしてくれる。
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