砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命
「お前はいつも望みなんて叶わないから望まない方がいいと言っていたが。
俺の望みが一つ叶った。諦めずに待った甲斐があった」

カインの耳元でアベルがささやくと、カインは自嘲的に少し口元を歪ませた。

「フォトキナ王子ともあろうお方がなんと小さな事を」

「小さな?とんでもない。壮大で叶わぬ望みだった。
よく似合っているよ」

「まさか。ドレスが立派すぎます。モレーが頑張って飾り立ててくれましたが…滑稽でしかありませんよ。
それに、まさかデュスだなんて。アベル、一体何を考えているのですか。これから婚約されるというのに」

カインのささやき声はなんだかいつもと違う。ドレスのせいか、いつもより高めの女性らしい可愛らしい声だ。

「お互い最後くらい本当の自分に向き合ってもいいだろう?
俺は一番愛しい人を今夜のパートナーに選んだ。それだけだ」

そう言ってアベルは重ねた手にギュッと力を入れた。

「……痛いです、アベル」
「しっかり掴んでいないと、消えてしまいそうだから」

アベルに掴まれた手が熱い。腰に回された手のあたりも熱い。

彼と踊れるなんて。しかもデュスを着て。
こんな公衆の面前で抱き寄せられて彼からの愛情を感じられるなんて。

これは夢なのかもしれない。

「このまま…時間が止まってほしい」

カインからふとこぼれた言葉。カイン自身驚いて思わず足を止めた。

ーーアベルに聞こえただろうか?
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