砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命
「アベル。私はもう帰ります」
「なぜ?今夜はお前を帰すつもりはないよ」

カインは小さく首を横にふって、うつむいた。

「こんな姿をこれ以上晒すなんて。もう充分ごらんになったでしょう?」

そう言って立ち去ろうとしたカインは後ろからいきなり強い力で抱きすくめられた。

「ごちゃごちゃ言うな。俺はもう死ぬまで、いや死んでもこの地には戻れない。
残された時間くらい、愛する人のそばにいたいだけだ。
今夜は二人きりで。明日はアルスと三人で。最後の時間を一緒に過ごしたい」

「アベル…」

アベルの想いが痛いほどに伝わってくる。

ーーアベルがここにいる、今のこの瞬間を大切にしよう。
失うことの怖さより、今を捨ててしまうことのほうがもっと怖い。
今だけ。この人の前でだけ素直に生きてみたい。アベルならきっと全てを受け止めて、そしてそれを一人胸に秘めてくれる。

「私、本当に幸せです。私の人生でまさかドレスを着れる日が来るなんて。それもアベルとデュスだなんて」

「よく似合っているよ。君は誰より美しい、俺だけの女神だ」

カインはアベルに体を預け、そっと目を閉じた。

この幸せな気持ちを絶対に忘れないと誓いながら。
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