砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命


カインは傷を負ったアベルの拳をやさしく両手で包んだ。

心臓は飛び出しそうなほどに高鳴り、息をすることさえ忘れそうだ。

こんな形で再会するなんて思いもしなかった。

ブリュオーからアベルが率いる軍隊が到着し、救護隊の支援が受けられてホッとした。と同時にアベルに会うことが怖くて森の奥に隠れていたというのに。

「過去は、忘れました。
殿下もどうかお忘れください」

「俺はお前にもう一度会いたいと、それだけを希望に今まで生きてきたんだ。それなのに、忘れろ、と?」

怒り、戸惑い、そういった感情が入り混じったアベルの顔。
ブリュオーで苦労しているのだろう。三年ぶりに見る愛しい人の顔は、実年齢以上に老けてみえるほどにやつれていた。

こけた頬に手を伸ばしたくなる。

アベルにはもう会えないと覚悟して生きてきた。反対にアベルはカインに会うことを希望に生きてきたと知り、心が喜びに震えている。

ーーこれ以上はダメだ。平常心が保てなくなる。
カイン・オルディンとして生きた人生の全ては捨てたのだ。その胸にブリュオー軍の大きくきらびやかな勲章をつけたアベルとは住む世界が違う。

「もうじき暗くなります。殿下も早くお戻りください」

耐えられず、カインは走りだした。

「待て、待ってくれ」

呼び止めるアベルの声を振り切るように、カインは足を前に前に必死で動かした。

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