砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命
「聞き分けのよい女性で助かる。
ところで先ほどより気になっていたのだが、その指はどうした。なぜそんな色をしている」

今日は礼服ではないので手袋をしていない。変色した指先を指摘されてカレンはそっと指先を隠す仕草をした。

「バンヤクをすりつぶすとどうしても着色してしまうので」
「……バンヤク?なぜそんなものを」
「外用薬としても内服薬としても万能ですし、手軽に入手できますから。見苦しくて申し訳ございません」

先日の国境付近での小競り合いの際に、アルスが医学に覚えのある者を現地に連れて行ったと聞いている。指先があそこまで変色するほど薬草をつぶしたというなら間違いない。この女性を帯同させたのだろう。

「ただの田舎貴族の娘と侮っていたが。医学の知識はどこで学んだ?カルヴィンからか?」

カレンは自分の指先を見つめた。フォトキナの女性は学ぶことを奨励されない。医学の知識があるというだけでレオポルトが不審に思うのも無理はない。
フォトキナで師レオポルトを味方につけることは必須だ。このまま騙しとおして彼の信頼を得られるとは考えられない。

「知らないことを知ることが好きなだけです。知識は裏切らない」

かつてカインがよく口にしていた言葉をあえて使う。

「懐かしいな。それはカルヴィンの口癖だ。なるほど、カルヴィンの妻であるあなたが医学の知識でわが国民を救ったのか。
顔を上げてください。直接礼がいいたい」

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