砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命
少しクセのあるアベルの字を指でなぞる。

カインは文面を何度も目で追った。まるで、会いたいと願う恋文のごとくアベルの情熱が伝わってきて、体は震え、視界は涙でぼやける。

出来る事ならすぐにでも飛んでいきたい。これほどまでに必要とされていることが嬉しくもあり、辛くもあった。

唯一の友と呼べる人。互いに足りないところを補完し合い、呼吸だけで考えていることがわかるくらい気があう最高のパートナー。
彼の手足となり、影のように寄り添って過ごした日々は楽しかった。アベルがこんな自分を必要としてくれたことで、生きている実感と居場所があった。
わずか数ヶ月前のことなのに、まるで遠い昔のようだ。

だが。

カインは顔を上げ、滲んだ目元を乱暴に手で拭うと、窓ガラスに映る己の姿を見た。

公爵となった今、この姿で公衆の面前へ出ることは自らを破滅へと追いやることになるだろう。
公爵として立ち振る舞えば、その動向は嫌でも人々の目に触れるから。

カインが反アルベルト派のミヤニング伯爵にしたように、相手の弱みを握ろうと画策している輩はごまんといる。いずれ、病弱な体の真実が露見してしまう。

健康な男子ならば、身長が伸び、声も低くなり男らしくなる年頃。
今までは病弱なゆえに、中性的で華奢な男子として、アベルの陰で目立つことなく過ごせたが。


真実が露見したら、オルディン家は終わる。
それだけじゃない、アベルとの友情も終わる。
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