砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命
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その時不意にジョセフィンが何かをつぶやいた。それはカインも初めて聞く言葉だった。
「正妃様、それはブリュオーの言葉ですか?」
カインは初めて聞く言葉に興味を持って尋ねた。
「あら、ごめんなさい。これは『あるがままに、自然の成り行きに任せましょう』という意味の、今は使われていない古いブリュオーの言葉なの。なんだか気持ちを楽にしてくれる言葉」
「耳に心地いい音の言葉ですね」
「でしょう?兄と私はこの古い言葉が好きで二人で勉強したの。カルヴィン様もご興味があればぜひ」
ジョセフィンの兄といえば森と狩猟の国ブリュオーの国王ラインハルト四世だ。賢王と名高い彼は妹婿であるディアルドが愛妾を囲うと言ったらどう思うだろうか。二国間にひずみは生まれないだろうか。
「兄のことならご心配なく。ブリュオーはフォトキナより性に奔放で寛容な国です。兄にも正妃様以外のお相手がいますから」
あまり表には出てこない大人しく控えめなジョセフィン。だが、普段アベルくらいしか読み取れないカインの思考をとっさに判断したことに驚かされる。