砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命
小雨がそぼ降り、外套は濡れてモレーの体に重くのしかかっていた。体はどんどん冷えていく。
目の前の城門は固く閉ざしたまま、開かない。

どれほどの時間こうしているだろう。
流石にアルベルト王子も休んでいるに違いない。朝までこうして待つことになるか。それともこのまま帰されるか。

「おまたせしました、こちらへ」

城内へと案内されたときは、ホッとした。


「モレー?これは驚いたな。オルディン家からの火急の知らせだというからてっきりモリセットかと思ったが」

通された部屋で、目を丸くするアベル。

「…カインに何があった。そなたがわざわざこのような時間にやってくるのだからよほどの状態なのだな?」

アベルは声をひそめ、モレーにそっと声をかけてくれる。
本気で心配している様子に、モレーは意を決した。きっと、彼なら主(あるじ)を無下にはしないはずだ、と。

「恐れながらアルベルト殿下。我が主カルヴィン様は…」

そこまで言いかけて、モレーは周囲を見渡す。オルディン家にとって最高機密事項だ。誰かに聞かれていやしないか不安になる。

「大丈夫だ。人払いしている。申せ」

いざ本人を目の前にすると、さすがのモレーも言いよどむ。
真実を述べれば王子を困惑させてしまうだろう。
ことと次第によっては、カインの立場も悪くしてしまう。
勢いでここまで来たものの、いざとなると理性が言葉を阻む。

「どんなことでもいい。話せ、モレー。カインのことは俺が守るから」

その一言に、モレーにわずかに残っていた理性は吹き飛んだ。

ーーこの方ならば、カルヴィン様を決して悪いようにはしない。

「カルヴィン様は…ご懐妊されました」

小さな小さな声で、そっと耳打ちをした。
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