幸せにしたいのは君だけ
「――それでは失礼します」


その時、使用中となっていた応接室の扉が開き、人が退出する声がした。

隣の部屋で備品の交換を終えて、私はそっと邪魔にならないように外に出た。

来客者はすでに少し離れたエレベーターホールに向かっているようなので、そのまますぐ隣の応接室に向かう。


「……三浦さん?」


少し離れた場所から声をかけられた。


「益岡、さん?」

「久しぶりだね」

「はい……あのっ、先日は失礼しました」


出会った日の失態を思い出して頭を下げる。

ほんの数カ月前の話なのに、ずいぶん懐かしい気がする。


「気にしないで。あの時はビックリしたけど、いい経験をさせてもらったよ。好きな女性にはなりふり構わず奪いに行かなきゃいけないんだって教えてもらった気がする」


茶化したように話してくれるこの人は、さすが千埜の友人なだけあって気遣い上手だ。


「あの彼とは、うまくいってるの?」

「あ、はい……」


曖昧に返事をする。

うまくいっているとは言えない。

でも今、この人にそれは告げるべきではないと思った。


「そう、よかった。彼は本当に三浦さんに夢中だったみたいだし。幸せにね」

「……ありがとうございます」
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