幸せにしたいのは君だけ
「今日は商談で来たんだけど、まさか三浦さんに会えるとは思わなかったな。千埜には、しょっちゅう会うんだけど」

「千埜は営業課で、私は総務課ですから」

「ああ、そうか。でも会えてよかった。千埜に三浦さんがずいぶん気にしているって言われていたから申し訳なくて」

「いえ、そんな私のほうが……」

「過ぎた話だし、もう本当に気にしないでね。それじゃあ」


そう言って、手を振ってくれる益岡さんは本当に優しい人だと思った。

あの日から、私と圭太さんの距離は近づいたはずなのに。

どうして今、こんな風になってしまっているんだろう。


自分で決めたはずなのに胸が痛い。

思わずジワリと涙が浮かびそうになり、必死で瞬きをして押しとどめる。


泣かない。

仕事場で泣いていいはずがない。

社会人なのだから、そんな真似はできない。


しっかりしなさい。

私はもっと強いはずでしょう。

ひとりの男性に振り回されたりなんかしない。


首を小さく横に振り、ぱんっと軽く両頬を叩く。

気を取り直して、備品の確認をしていると床に一本の黒いペンが落ちていた。

明らかに当社の備品ではない。

有名ブランドのボールペンだ。


誰かの落とし物?

……もしかして益岡さん?


社内の人間のものなら、後からでも確認できるが益岡さんのものだと届けに行く必要がある。
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