嘘つきは恋人のはじまり。



 恥ずかしさを隠すように九条さんの肩に置いた手を首に回した。俯いて顔を隠せば耳元でクスクス笑う声が聞こえる。


「恥ずかしい?」


図星をつかれ、びくん、と肩が揺れる。そのまま抱きしめられて九条さんの頬がわたしの頬を撫でた。「大丈夫だよ」と言われているようで「恥ずかしくない」と諭されているようでそっと顔をあげる。ぶつかった視線は柔らかく、どこか嬉しさを含み口元が緩んでいた。


「可愛い。全然恥ずかしくない。もっと見たい」


耳元で擽る甘い囁き。“もっと見たい”と言われてさすがに困った。見せたいものじゃないし見て欲しくはない。だけど、きっとどんな醜態を曝け出しても嫌な顔ひとつせず、九条さんは受け入れてくれるという安心感が生まれた。それはどこから来たのか分からないけど、変な自信があった。


「…キスだけって」


「キスしよう。さっきみたいに」


ここまで来てもなお『キスだけ』は変わらない。すでにキス以外のこともしているような気がするけど、九条さんの唇が常にわたしのどこかに触れている。つまり、キスだけ。

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