虹色アゲハ
柑愛の携帯を乗っ取って以来。
揚羽は2人のやり取りを耳にしたり、文字で見たりはしていたものの。
実際目の当たりにすると、不可抗力に胸が疼いて…
それが腹立たしくてたまらなかったのだ。


すると、ふいに久保井と視線が絡んで…

「っ、本当に仲がいいですね」
慌てて笑顔でそう取り繕うと。

「うん、いつかは結婚したいと思ってるし」
返ってきたその言葉に…

感激する柑愛と持て囃す田中専務に紛れて、揚羽は胸を抉られる。


かつて自分も久保井に言われた、プロポーズを思わせるその言葉は…
今までで一番嬉しかった言葉で。
この上なく残酷な言葉で。

憎らしくて、遣り切れなくて…
でももう2度と、久保井なんかに心を乱されたくなくて…

今に見てろと、必死に自分を奮い立たせた。



その夜、仕事を終えると。

心がボロボロに疲れ果てた揚羽は、倫太郎に甘えたかったが…
同じ局面で拒絶された手前、出来なくて。

かといって他に甘えられる場所もなく…
でも独りにはなりたくなくて。

以前のように、店の近くの公園に向かった。
< 110 / 268 >

この作品をシェア

pagetop