月が綺麗ですね
「今日は……あの人を描こう!」

海を見ていたら、あの人の顔が思い浮かんだ。あたしがこの街に引っ越してきたばかりの頃、この海で出会ってまたに話すあの男性。

黒いふわふわした髪に眠そうな目。白いシャツがよく似合う細身の人。でも意外にも、趣味はボクシングって言っていた。たまにこの浜辺で練習をしている。

その男性ーーー海崎さんの顔を頭にはっきり映し出しながら、あたしはペンをスケッチブックに走らせる。顔の輪郭を描いて、髪の毛をつむじから一本一本丁寧に描いていく。海崎さんのことを考えると、いつも胸が高鳴って止まない。ペンが震えちゃいそうだ。

「こんにちは。今日は何を描いてるんですか?」

海崎さんの目を描いていると、その本人に話しかけられる。あたしは「わあっ!!」と驚いてしまった。

「えっ……。ごめんなさい?」

海崎さんが謝り、あたしは「いやいや、驚いてしまってすみません!!」と慌てて謝った。海崎さんに非は一切ない!うん、多分!!
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