侯爵令嬢は殿下に忘れられたい!
「か、会議は終わったのですね」
「元々私は参加しなくてもいい会議だったからねまだ長引きそうだったから途中で抜けてきたよ」
「そ、そうですか」
何か話題をと思うが焦れば焦るほど何も浮かばない。
この沈黙の時間、気まずいわ‥。
さっきの話を聞かれただけに下手なことを言えない。
ルバートはクラリスの隣の椅子に腰掛けると、上に視線を向けて何か考えているようでそれが余計これから何を言われるのかとクラリスを怯えさせた。
「‥結婚は好きにしていいって言われていたから私はクラリスを選んだ。決して国のためとか侯爵家の娘だからという理由ではないよ」
ルバートはクラリスと視線を合わせないまま静かに話し始める。
私が選ばれた理由を教えてくださるのかしら?
クラリスは少し緊張しながら真剣な面持ちでルバートの話に耳を傾ける。
「初めは完璧令嬢の噂を聞いてどんな人物なのか単純に興味を持ったんだ。私も完璧と呼ばれているからね。初めてクラリスの姿を見たのは去年の公爵家の夜会でかな」
「公爵家の夜会ですか?」
去年といえばディーノン公爵家の夜会に行った時だろうか?
でも殿下らしき人なんて見かけてないわ。
そもそも殿下が来ていたら周りの御令嬢が色めき立って気づくと思う。
「そうだよ。けど私だって気づかれないように変装していたから主催者であるディーノン公爵家の者以外は私だとはわからなかったはずだ」
「‥なるほど」
まさか私、変装していた殿下に何かやらかしたのかしら?
でもその夜会では私は力を使っていない。マナーもダンスも特に問題はなかった。
大丈夫よね?
その先の殿下の話で自分がやらかしていないことを祈りつつ続きを聞く。
「そこで初めてクラリスを見た時、あれは作ってるなってすぐわかったよ。誰かに向ける視線も笑みも本心じゃない。だから、1人でいる時のふとしたため息とか冷めた表情を見て本当は夜会は嫌いってこともわかったよ」
クスリと笑いながら言うルバートに対して、クラリスは恥ずかしさで顔が真っ赤になる。
「サスガデンカ、オミトオシデスネ」
完璧令嬢じゃないことをそんな前から気づいていたなんて!
あのお茶会の時に完璧令嬢を演じてる私はさぞかし面白かったことだろう。
恥ずかしくて死ねるわ。
「あ、あのルバート様少し体調が悪い気がしますわ。なので今日は帰らせて頂きます!では、失礼致します!!!」
「クラリス‥?」
これ以上どんな私が語られるのか怖すぎる。
今日はもう先の話を聞く精神力はない。
また今度聞きますから!多分。
まだ何か話したそうなルバートを無視してクラリスは退室する。
話の目的をすっかり忘れて過去の恥ずかしい出来事を話されている事実しか頭になかったクラリスはまたしても逃げた。