侯爵令嬢は殿下に忘れられたい!
「殿下は腹黒いってほど、腹黒くないと思いますよ。少し計算的なところがあるだけで。それも賢いゆえに自分がどの行動をとればいいかわかっているからこそですけれど」
「じゃあ、私と結婚したいのも何か裏があるわけじゃない?本当に私だと安らげると思って?うーん、でもやっぱり怪しいわ」
「かなり疑っていますね」
「この間のご令嬢が一同に集められたお茶会で初めてお会いしたのに、それがいきなり婚約なんて流石におかしいと思いませんか?普通はもっと相手を知ってから婚約するものなのに‥王族の結婚ならなおさら」
「確かにその通りと言えばその通りですけど。本当にそのお茶会が初対面だったのですか?」
「ちらりと遠目から拝見したことがあるぐらいで初対面はあのお茶会ですわ」
忘却の力、記憶に関する能力を持っているからかクラリス自身の記憶力も人並み以上に良い。
だから実は会っていたけど忘れていましたってこともないと言い切れる。
私が淑女らしからぬ反抗的な態度を取ったからというのも決定的な出来事とは言えない。
本当に殿下が純粋に私だから結婚したいと思っていてくれるなら他に何かあるはずだわ。
クラリスは考えてみるも答えは浮かんでこない。
「やはり殿下に直接聞いてみるのが1番手っ取り早いですから聞いてみましょう。ね、殿下?」
アルトさんのその言葉にまさかと思い、視線をドアの方に向けると予想通り殿下が立っていた。
密室にならないようドアが開いたままだったのでまったく気づかなかった。
「では私はこれで」
一礼してアルトは部屋を出ていく。
礼をする瞬間にニヤリと笑ったのは気のせいだと信じたい。
護衛はいるけど実質2人きりにするのはやめて欲しいと思い、アルトさんを呼び止めようと口を開きかけたが、
「じゃあ今度は私と話をしようか」
殿下の言葉に遮られ言葉にならなかった。
それより殿下の笑顔がいつもより圧があるのは気のせいだろうか。
いつから聞いていましたか、なんて怖くて聞けない。