侯爵令嬢は殿下に忘れられたい!


今日は国が集めた寄付する物をクラリスが代表して孤児院に持っていく予定だった。

孤児院に行く予定を変えるわけにも行かないし殿下と一緒に行ってそのまま真っ直ぐ城に戻るしかない。

本当は少し町にも行く予定だったけれど、何が何でも直帰!!

町娘の装いをしたクラリスは不機嫌な表情を無理やり笑顔に変える。

執務室に行くとどうやら殿下は書類にサインをしているようだった。

やっぱり声をかけないで一人で行ってしまうかと思うが置いていったら後が怖い。


「おまたせしました」
「どんなクラリスも可愛いね」
「‥ありがとうございます」

お世辞か本心なのかわからないので軽く流す。

「それじゃあ行こうか」

ペンを机に置いて、ルバートが立ち上がる。

「馬車は目立たないものを用意させたよ。今日行く孤児院は西にあるところだよね?」
「そうですわ」

クラリスはルバートにエスコートされながら馬車に向かう。

メイも一緒に来て欲しいけど、無理よね‥。

メイは支度のために城に一緒に来てもらったので孤児院へは行かないのだ。

「頑張って来て下さい!クラリス様」

馬車に乗る前にメイがクラリスに言う。

「ええ‥」

殿下との関係進展は絶対に頑張りたくないが。



馬車の中は殿下と2人きり。

向かい合って座っているため目があわないようにクラリスは外の景色を楽しんでいるように装う。

さっきから殿下の視線すごい感じるけど、目をあわせたら負けだ。

この間の話の続きをされたくないと思っていたら、幸運なことに訪問する孤児院は城から馬車であまり距離がないため私の恥ずかしい過去話をされることはなかった。

孤児院に着くと院長がルバートとクラリスを迎える。

「クラリス様とルバート殿下ご寄付だけでなく、わざわざ足を運んで頂きありがとうございます」
「こちらこそ急に来ることになってすまないね」
「とんでもございません。こうやって孤児院にも目を向けていただき大変感謝しております」
「短い時間だけれどよろしくお願いしますわ」
「もちろんです」

少しの間院長と私と殿下と3人で話していると、

「あー!運動音痴のお姉ちゃんじゃん!!」

どこからともなく現れた子供がクラリスを指差して叫んだ。

「コラッ!何ということを言うのです!」

子供の無邪気な一言に院長が慌てて叱るがバッチリ全員に聞こえただろう。

今日訪れた孤児院は侯爵家としても個人的に何度か寄付をしており、クラリスも訪れたことがあった。

そして前回、孤児院の子供たちと外で遊んだ時に盛大にこけたり、ボールを顔面にぶつけたりと散々な結果だったのだ。

子供たちが爆笑してくれただけまだマシだったわね‥。

運動音痴というよりは、久しぶりの運動で身体がついていけなかっただけと思いたい。

こうなるんだったら力を使えばよかったかしら。

殿下もきっと私のこと笑っているよね?と思いながら、隣に立っている殿下を見るといつもの微笑みを浮かべながら子供を見ていた。

「では、今度は私と外で遊ぼうか」
「お兄ちゃん誰?お兄ちゃんも運動できないとかないよね?」
「剣術と武術を嗜んでいるから問題ないよ」
「剣術?!騎士なの?お兄ちゃん!」
「いや、騎士ではないよ」

騎士どころかこの国の王子様だと教えてあげたら子供はどんな反応するのだろうか。

でも、子供にとったら王族も平民も関係ないかもしれないわね。

そんなことを考えていると、

「クラリスはどうする?」

ルバートがクラリスに尋ねる。

「私は部屋で子供たちと一緒に遊びたいと思います」

外遊びはもう懲り懲りだ。

「じゃあまた後でね」
「はい」

ルバートとクラリスは外と中に別れて子供たちと遊ぶことになった。
< 12 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop