出逢いがしらに恋をして
 宮沢さんは手にしていた紙の束を机に置いた。

「よく書けてる。あとは2,3誤字を直せばOK。赤字入れといた」

「ありがとうございます」わたしはぺこっと頭を下げた。

 とつぜん、かちかちという時計の音が気になりだした。

 午後9時半。

 昼間の喧騒が嘘のように静寂に包まれたこのオフィスに今、いるのは、

 わたしと宮沢さん、ふたりだけ……なんだ。

 そのことが急に意識にのぼってきた。

 このままだと、まずいこと、口走っちゃいそう。

「コーヒー、入れてきますね」

 わたしはあわてて、給湯室に向かった。
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