レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。
そこでリディアは初めて,自分の嫌な予感が現実になったのだと察した。
デニスが庇ってくれなければ,自分は危うく殺されるところだったのだ,と。
「デニス!……大丈夫!?」
大丈夫だ,リディア。こんなの,ただのかすり傷だって……()てて」
泣き出しそうな顔で心配するリディアに,デニスは強がって見せる。けれど,彼女が受けた精神的ダメージは,デニスの予想を(はる)かに上回っていたのだ。
大切な人を傷付けられた。彼の出血した右腕を凝視していたリディアの中で,何かがプツンと切れる。
「貸して」
感情を押し殺した,有無(うむ)を言わさぬ口調で彼女は言い,デニスの腰から提がっている鞘から剣を抜いた。そのまま,切っ先を真っすぐサルディーノに突きつける。
その所作(しょさ)こそ静かで美しいが,(うち)にはただならぬ怒りを秘めており,刃を向けられた異国の宰相はその恐ろしさに(すく)み上がった。
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